2009-01-01から1年間の記事一覧
さすがカーの代表作。心地よい外連と怪奇趣味。密室講義は、フェル博士が読者に話しかけるメタ・フィクション仕立て。
年末に大量発生するベストテン企画。もうまったく興味がなくなって、商売柄それではいかんと反省しきりなのだけど、これだけは面白かった。結局、順位などより、誰かが気に入った本について好き勝手しゃべってるのが好きなんですね。
トム・セレック主演のこのドラマシリーズは、配役、脚本、映像、音楽ともよくできていて、パーカーの原作のないオリジナルの回が作られたというのもうなずける。原作のメインプロットはヨットレースがらみの殺人だが、このドラマでは、過去の銀行強盗事件の…
今夏の思い出。天候はいまひとつだったが、南アルプスの山の深さを堪能。
ドストエフスキー、光文社古典新訳文庫。高校時代に読んだときには、ただもうグロスとしての物語の力に圧倒され、振りまわされ、ぶっ飛ばされた。それは過去に味わったことのない、めくるめくような感覚で、その後まさに取り憑かれたように米川全集を読みあ…
交響曲第38〜41番のセット。いずれもノンビブラートで清々しく軽快、かつメリハリの利いた演奏だが、「プラハ」がとくに印象的。第1楽章など空を飛んでいる気分。
クリップス+コンセルトヘボウのいつまでも大事にしたい演奏集。落ち着いたテンポと、オケの得も言われぬふくよかな響き。あえて注文をつけるとすれば、ジュピターの最終楽章でC-D-F-Eをちょっと無調ふうに展開していってCセブンスで解決するところが死ぬほ…
アラン・ムーア、エディ・キャンベル、みすず書房。とくに印象に残ったのは、丘の上に立ち現れる異教の神の姿と、ガル博士がネトリーを導くロンドン「巡礼」の旅。それにしても、この調査力と想像力には驚嘆する。
村上春樹、新潮社。その場のリアルな空気を作り出す力が突出している(おもに比喩のうまさによる)とか、温室に依頼人がいるパターンはチャンドラーだとか、物語の構造はそう目新しくもないとか、いろいろ考えながら読んでいたが、BOOK2で青豆が宗教団体の「…
ドン・ウィンズロウ、角川文庫。代表作と言われるニール・ケアリーのシリーズは、ワイズクラックがワイズすぎて、正直なところ好きではなかったが、この大作は文句なしにすばらしい。敵の子供を谷底に投げ落とすところに、麻薬王アダンよりむしろ作者ウィン…
ロバート・B・パーカーがいまいちばん書きたいのは、このシリーズではないかという気がする。「こんなことを言うのはお前にだけだ、エヴェレット」ヴァージルが言った。「お前には愚か者に見えてもかまわないんだ。しかし、今回は彼女を信じている」 「ほか…
30巻まで一気読み。これは漫画というより美術作品ですね。小次郎の造型がすばらしい。沢庵和尚の顔にも感心。筆による驚くような光景も。
三井誠、講談社現代新書。入門書として好適。講談社現代新書さん、なかなかやりますな。
福岡伸一、講談社現代新書。語ることばを持った理系の人の話は本当に面白い。第6章「細胞のなかの墓場」の論理展開のすばらしさに感心していたら(膵臓ガンは怖い)、そのあとスペクター事件というものすごいドラマが待っていた。そこいらのスパイ小説がぶ…
コンラッド、光文社。1ページ目の「薄黒い空気が凝って陰鬱な闇となり・・」からいきなり引きこまれる。既訳では、マーロウがどこで誰に何を話しているのかよくわからない個所もあったが、今回はそれもない。名訳です。脇役のロシア人や、クルツの婚約者も…
フォークナー、河出書房新社。架空の地ヨクナパトーファ郡の物語を、気が遠くなるほどの細密さでつむいでいったフォークナー。何よりその執着に惹かれる。原文はル・カレよりむずかしいにちがいない。「それじゃ、きみが我慢ならないのは、黒い血がまじって…
内田樹、文藝春秋。白眉は「食の禁忌について」。なぜハンニバル・レクター博士が神格化されたのか。「それは、「人間を殺して食う人間」は「動物を殺して食う人間」に「罰」を下しているということである。キリストがその愛によって人間たちの罪を贖ったの…
このチクルスは本当に録音がいい。オケの立体感がくっきり出ている。ジンマン+トーンハレに向いているのではないかと思った第6番で感心したのは、アンダンテ・モデラート。まことに清々しい「眺め」です。
ケルアック、河出書房新社。正直なところ、前半はまったくつまらなかった。乱暴な印象を述べれば、こそ泥たちが薬やって移動して騒いでるだけ。ところが、第3部から物語は別次元に入る。あいかわらず移動「依存症」なのだが、サルとディーンの「ふたりのな…
韓国語でカラオケを歌うと口が疲れる。慣れないということももちろんあるけれども、そもそも母音、子音の数が日本語よりずっと多いので、かなり口を動かさなければならないのだ。日本語でたんに「チョン」と書かれるものも、韓国語だと十種類以上の発音があ…
まさに十数年ぶりに、全曲通して聴いた。CDをかけても、たいてい第1幕で終わっていたのです。ところが、いまさら言うまでもないことながら、2幕以降もじつにいい。オケはウィーンの洒脱もどこへやら、重く厚く轟いているし、第3幕のフレー二の歌唱も情…
ブルガーコフ、河出書房新社。舞踏会のホステス役を探してモスクワに現れた悪魔の一団。司会者の首が飛び、裸の女が街にあふれ出す黒魔術ショー。キリストの磔刑を物語る巨匠と、心清らかな恋人のマルガリータ。箒に乗って空を飛ぶ裸のマルガリータと、豚に…
途中あまりにもつらくて何度も投げ出しそうになったけれど、これを見るのは人間としての義務(大げさながら)だと自分に言い聞かせて、最後まで見た。付属のメイキング映像やドキュメンタリーも必見。安手のエンターテインメントが横行するなかで、この映画…
内田樹、アルテスパブリッシング。内容の多くはブログですでに読んでいるはずなのに、読みはじめると止まらず、数時間で読了。『「激しく欠けているもの」について』の推論の見事さ。最後の一文にはぞくっとしました。
勝手にモーツァルト祭りが続いている。全般的にバイオリンはあまり聴かないのだけれど、5番の第1楽章など、本日の春日和にぴったり。
ややオケ寄りの席で、声の聞こえがいまひとつだったけれど、これほどすばらしいとは。とくに女性陣の充実。美声かつ凛としたたたずまいのアンナ・ドンナ、平均値よりかなり妖艶なツェルリーナ。「バッティ、バッティ」のチェロは至福の音色。全体に躍動感あ…
山下洋輔の本(タイトル失念)を読んだせいで、ベートーヴェンのピアノ曲は聴くより弾くほうが愉しいという印象が強かった(たとえば「悲愴」)のだが、シフの演奏はどれも傾聴に値する。この「月光」の第3楽章など緩急自在でじつにスリリング、かつ演奏す…
作者コンラッドがレイシストだったかどうか、に個人的関心はない。1小説としてのこの作品、そしてこれを下敷きにした映画『地獄の黙示録』でとにかく顕著なのは、未知なるものに対する恐怖だろう。「未知」の度合いで言えば、ヴェトナム戦争より19世紀末…
コンゴ動乱。本当に救いがない。われわれはその後のモブツを知っているから、ルムンバに肩入れしたくなるけれど(もちろんこの映画もルムンバ寄り)、かりにルムンバの施政が続いていたとしても、コンゴに平和が訪れたとは思えない。大国が自国の外で好き放…
テルアヴィヴから車でたしか小一時間、丘に登ったところ。親切なタクシーの運ちゃんが案内してくれ、やたら声をかけてくる果敢な物売りにも対抗できた。三大宗教の聖地だが、無宗教の自分には正直ピンとこないこともけっこうあった。ただ、嘆きの壁にしろ、…