2011-01-01から1年間の記事一覧

ローラ・フェイとの最後の会話

トマス・クック、早川書房。主人公ふたりが酒を飲みながら話すというシンプルな作りで、なだらかに続いていく物語が心地よい。『大いなる遺産』のいちばん好きな個所が引用されていたのにも驚いた。裕福になったピップをジョーが訪ねるあの場面は有名なんで…

斜陽

太宰治、新潮文庫。急遽、読むものが必要になったので、自宅の本棚から。でもこれがたいへん面白かった。太宰はなんかひねくれて、うじうじしているという印象だったのだが、随所の決め台詞がすごいし、文章にたたみかけるようなリズムがある。この歳で太宰…

チェリビダッケのブルックナー

そしてブルックナー。どれもすごいね。 ・第4番第1楽章再現部の静かな美しさ。 ・第5番第1楽章や、第7番第1楽章の大きさ。 ・第8番、巨大すぎ。第2楽章の喜び。第3楽章でふっと力を抜く技。 ・第9番、これまで聴いた9番のなかでいちばん遅かった。

チェリビダッケのベートーヴェン他

チェリビダッケ+ミュンヘン・フィルをきちんと聴いたのは初めて。 とくに印象に残ったのは、『運命』終楽章の大きさや、ブラームス交響曲第1番第2楽章の美しさ。ブラームス第2番は全体的にすばらしい。この大きさでいくと、ブルックナーはいったいどうなる…

大いなる遺産

ディケンズ、河出文庫。古今東西、キャラクター造型でディケンズに敵う人はいないと思う。ほかの作家が不器用にエピソードを重ねて説明する人物の内面を、ディケンズは、ちょっとした仕種やなにげない会話を使って1、2行で見事に描き出す。とはいえ、得手…

内田光子@サントリーホール

モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K397 シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 op. 6 シューベルト:ピアノ・ソナタ イ長調 D959 (アンコール)モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K330 第2楽章生で聴いたのは初めてだが、いや畏れ入りました。どの曲もきわ…

今日のことば

50歳になった脚本家、三谷幸喜さんのインタビューから(日刊スポーツ)。 10秒でしゃべるセリフは、できるだけ10秒で書きたい。10秒のセリフを5時間かけて書いても、言葉は吟味されても、生き生きしたセリフではないので。しゃべってるスピードで書きたい。

ねじれた文字、ねじれた路

トム・フランクリン、早川書房。傑作。ラリーやサイラスがよく書けているのはもちろん、サイラスの母親の息子に対する思い(p. 205)など、あらゆる描写が万全で、読者を切ない思いにさせる。

オリバー・ツイスト

チャールズ・ディケンズ、新潮文庫。圧巻は第47〜48章。ナンシーを惨殺したサイクスがロンドンを彷徨う姿は、そのまま『罪と罰』のラスコーリニコフと重なる。 殺人者は法の裁きを免がれ、神は眠りたもうと思うなかれ。このような恐怖の苦しみにみちみちた一…

スクロヴァチェフスキ@東京オペラシティ

スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団。 ・シューマン:交響曲第4番 ニ短調 op.120 ・ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調ふたつ並ぶと、やはりオーケストレーションはシューマ…

今日のことば

朝日新聞に載っていた、映画プロデューサー中沢敏明さんのことばが印象に残る。 周囲を見渡すと、若者もオジサンも生き方指南の本を読んでいる。これではみんな同じような生き方になる。僕は、皆がいいと言う方向の逆へ進もうと考える性格です。 僕はね、「…

背後の足音

ヘニング・マンケル、創元推理文庫。毎年このシリーズが出るのが楽しみ。はずれがまったくない。でもヴァランダー、もう少し体をいたわらないと。

生、なお恐るべし

アーバン・ウェイト、新潮文庫。訳がすばらしい。次作にも期待。終わりのほうは、主役がハント(牧場主)からドレイク(保安官補)に移っている気がするけれど、それはこちらが感情移入してしまったせいだろうか。

犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ、東京創元社。世評は抜群だが、あまりピンと来なかった。いくらかピンと来たのは、緑、棘、エチオピアの男。それでも、小説を読んだあ、という喜びがあまりない。そもそもこの本にそういうものを期待するのは、的はず…

夜想曲集

カズオ・イシグロ、ハヤカワepi文庫。「老歌手」最後はどうなるのだろうという興味で読ませるし、語りも丁寧、ベネチアの雰囲気もいい。でも後味がよくない。「わたしを離さないで」でも感じたけれど、なんとも言えない「苦味」がある。この歌手は本当にカム…

フレンチ警視最初の事件

F・W・クロフツ、創元推理文庫。女性主人公がのっけから悪事にどんどん巻きこまれていく展開が、倒叙風味で新鮮。クロフツって、元鉄道技師だけあって、頭が理系なんですよね。そこが好きです。

死者の奢り・飼育

大江健三郎、新潮文庫。大学時代、医学部で屍体処理のバイトがあるという噂があって、いまでいう都市伝説のようなものかと思っていたが、この小説が出所だったんですね。同郷のノーベル賞作家となれば、もっと早くに読んでいてもおかしくないのだけれど、新…

二流小説家

デイヴィッド・ゴードン、早川書房。こんなに大盤振舞で次作から大丈夫かと思うほどのサービス精神。すばらしいと思った個所を列挙すると、 ・p. 33 別れたジェインとの思い出。「楓の押し葉が粉々に砕けた」。 ・p. 65 法律事務所の助手がシビリンの吸血鬼…

ブラームス/ピアノ協奏曲第2番@サントリーホール

都響、ジョセフ・ウォルフ、若林顕。大好きなホール+曲だったが、あまり集中できなかった。反響板がずいぶん上がっているのを見て、震災後初めて来たなとか、コントラバスの人がNHKの水野解説委員に似てるとか、そんなつまらないことばかり考えてしまった。…

逃亡のガルヴェストン

ニック・ピゾラット、早川書房。すばらしい小説。時を隔てた偶数章による伏線や、ちびすけが訪ねてくるラストの構成がうまい。主人公が昔の恋人のロレインに会いにいく場面など、イメージの配置がまさにルヘインふう。

パーヴォ・ヤルヴィのベートーヴェン4・7

テレビで5番を聴いてのけぞり、CD購入。4番、7番はどちらもクライバーの名演が忘れられないので、最初は「ちがい」ばかりが耳についたが、こちらもとくに7番は気に入った。ノンビブラートでぐいぐい進むのが爽快。ティンパニ、トランペットがいいね。

死刑囚

アンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレム、RHブックス・プラス。わずかな中だるみは感じた(引き渡しをめぐる政治的駆け引きなど)ものの、獄中で死んだはずの死刑囚と六年後の暴行事件がつながる前半と、死刑執行からラストにかけての展開は見事な…

夜は終わらない

ジョージ・ペレケーノス、早川書房。さすが読ませるし、とくにガスとレジーナのラモーン夫妻のやりとりがいい。死んだ少年の父親が息子にノース・フェイスのジャケットを買い与えたエピソード(p. 226)も印象的。幕切れもうまい。しかし、日本であまり売れ…

七人のおば

パット・マガー、創元推理文庫。まったく期待していなかったが、たいへん面白かった。この人はいける、と最初に思ったのは、テッシーとバートがなぜ惹かれ合ったのかという分析(p. 53)のところ。ほかにもハイスミスを思わせる冷徹な観察がちらほら。しかし…

ザ・タウン

試写会に行ってきた。原作『強盗こそ、われらが宿命』と大きくちがう点は3つ。まず、結末。聞くところによると、試写テストでこちらのほうが受けがよかったからだとか。第2に、フローリーの人物造型。原作ではもう少し柔な男で、クレアに惚れて、ダグと三…