2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

菜食主義者

ハン・ガン、CUON。連作中篇とも言えるし、ひとつの長篇とも言える。ある日いきなり菜食主義者になって、しまいに食べること自体を拒み、植物になろうとしている女をめぐる物語。作品ノートに「慰めや情け容赦もなく、引き裂かれたまま最後まで、目を見開い…

ピクニック・アット・ハンギングロック

ジョーン・リンジー、創元推理文庫。夢の内容は小説になりうるか、というテーマを考察していたのは筒井康隆で、それが「熊ノ木本線」や「遠い座敷」といった短篇に結実したのだが、ここに外国産ながら見事な長篇があったではありませんか。といっても、実話…

ザ・ソプラノズ シーズン2

これといった展開はないのに(といっても、リッチーとプッシーの退場はあり)だらだらと見てしまう。よくできたドラマなのだろう。トニーの姉の扱いには少し驚いた。ちなみに、冒頭のテーマ曲の映像に出てくる豚の看板の肉屋が重要な役割を果たしているが、…

Xという患者

デイヴィッド・ピース、文藝春秋。訳は本当にすばらしい。芥川の文章と渾然一体となって読者を翻弄する。これの関東大震災のところを読んでいたら、大河ドラマ『いだてん』も震災だったというセレンディピティ。 ただ、どうしても気になることが。これを言う…

少年が来る

ハン・ガン、CUON。まごうかたなき傑作。胸が、目頭が熱くなる。とくに少年の母ちゃんの章。エピローグの、少年の兄のひと言。「誰も私の弟をこれ以上冒瀆できないように書いてください」 ほんの39年前の話である。ここから民主化まで持っていった韓国の人々…

フランク・オコナー短篇集

フランク・オコナー、岩波文庫。これは大きな拾い物だった。たいした事件は起きないのだが、じつに味わい深い。「ぼくのエディプス・コンプレクス」や「はじめての懺悔」の子供視点もいいし、「国賓」、「花輪」も秀逸。「ジャンボの妻」の疾走感と、「汽車…

荒涼館

チャールズ・ディケンズ、岩波文庫。ディケンズの登場人物は総じて善人寄りだが、エスターほどの善人は珍しい。ジャーンダイス氏も善人だけれど、彼のせいでリチャードやスキンポールがああなったと言えなくもないので、なんとも。 エスターとレディ・デッド…