チャールズ・ディケンズ、岩波文庫。ディケンズの登場人物は総じて善人寄りだが、エスターほどの善人は珍しい。ジャーンダイス氏も善人だけれど、彼のせいでリチャードやスキンポールがああなったと言えなくもないので、なんとも。
エスターとレディ・デッドロックをめぐる話は吸引力があるし、煉瓦作り職人を訪ねる場面など、小さなエピソードで読ませるところはいくつもある。タルキングホーン殺しとバケット警部による事件解決が推理小説の嚆矢であるという指摘も興味深いが、やはり現代小説から見れば長すぎるという感じは否めない(大筋だけ追うなら、2巻など不要では?)。ワグナーにこじつければ、『大いなる遺産』がトリスタンで、『荒涼館』はリングであろうか。