2010-01-01から1年間の記事一覧

ごろつき船

大佛次郎、小学館文庫。「昭和エンターテインメント叢書」のトップを飾るにふさわしい痛快な一作。覚円という、仲間を助けるためには殺人も厭わない和尚が言う。 「第一、私たち、無頼漢どもは、実際なにも持っていないが、人間の心持がこんなにぴったりと結…

マタイ受難曲@サントリーホール

ローデリッヒ・クライレ指揮、ドレスデン・フィル、ドレスデン聖十字架合唱団、(S)ユッタ・ベーネルト、(A)マルグリエット・ファン・ライゼン、(T)アンドレアス・ウェラー、(B)クラウス・メルテンス、(B)ヘンリク・ベーム。生で初めて聴くマタイ全曲。いろい…

てんやわんや

獅子文六全集・第四巻。「私の主人は私である。私は私の生活を生きねばならない」と言いながら、周囲の人々に惑わされて右往左往する犬丸順吉。微笑ましい南伊予の人々や風物もさることながら、土佐との境の黒霧山にあるという、檜扇(ひおぎ)の里が印象に…

ロイヤル・コンセルトヘボウ@サントリーホール

ヤンソンス指揮。ロッシーニ「ウィリアム・テル」序曲、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲、アンコールにバッハの無伴奏パルティータ、ブラームスの交響曲第4番、アンコールにハンガリー舞曲第5番と「アルルの女」。このコンビでモーツァルトもブルック…

捜神鬼

西村寿行、小学館文庫。「聖獣鬼」の鬼気におののく。個人的な好みは「海獣鬼」。重吉の「なめそ」に対する思いが哀しい。

ゲット・カーター

テッド・ルイス、扶桑社ミステリー。"boston noir"で編者のルヘインが言及していたので読んでみる。傑作。兄の死を機に故郷の町に戻ったジャックが仇討ちをするシンプルな話だが、冒頭から完全に惹きつけられる。随所にはっとする表現あり。とても40年前の作…

神々の黄昏

ティーレマン、バイロイト祝祭管弦楽団、2008年のライブ。前三夜にも増してオケが鳴りまくる。第2幕の終わりの尋常ならざる迫力。ジークフリートの死からラストにかけての勢い。いつまでも聴いていたい。全体を通して、もうリングは一生これだけでいいやと…

ジークフリート

ティーレマン、バイロイト祝祭管弦楽団、2008年のライブ。ヴォータン(さすらい人)、やっと少し調子が出てきましたか。第1幕第2場なんて、こんなに豊かで面白い音楽だったっけと思うほど。もちろん第3幕も充実。しかし思えば、開始後2時間以上、男声し…

ワルキューレ

ティーレマン、バイロイト祝祭管弦楽団、2008年のライブ。第1幕第3場、ジークムントとジークリンデの愛の場面のすばらしさ。第3幕第3場のブリュンヒルデもなかなか。ただ、ラインの黄金でも感じたけれど、ヴォータンは少々弱いか。それにしても、このテ…

ラインの黄金

ティーレマン、バイロイト祝祭管弦楽団、2008年のライブ。ティーレマンの美点は「活きのよさ」にあると思う。たとえば、第4場の躍動感。

ジンマンのマーラー第9番

最初聴いたときには、こりゃあかんと思ったけれど、なぜか二回目に聴くと心地よく、これはこれでありかと。とくに第1楽章など、主情的演奏の対極。地獄に堕ちるときにはもっとドスーンと堕ちてほしい気持ちはやはりあるが。

黒竜江から来た警部

サイモン・ルイス、RHブックス+プラス。英語ができない中国の警官がイギリスでくり広げるドタバタ、といった先入観を持っていたが、意外にもダークでまっとうな筋立て。視点の切り替えもうまい。唯一惜しむらくは、主人公の警官のキャラクターが見えてこ…

サラサーテの盤

内田百、ちくま文庫。随筆の名手と言われているが、随筆のほうは正直なところ、ぴんと来なかった。しかし小説はすごい。冒頭の屋根瓦を小石が落ちてくるところといい、青空を背景として坂の上に母子が現れるところといい、聴覚、視覚のイメージ喚起力が抜群…

五番目の女

ヘニング・マンケル、創元推理文庫。ヴァランダーを始めとする警官たちの共同作業が、読んでいて心地よい。前作よりいい出来。

ツーリスト

オレン・スタインハウアー、早川書房。これは傑作。さまざまな謎が一点に収束していく快感。いつ終わるとも知れぬ逃亡のサスペンス。主人公ミロの妻子や、国土安全保障省のシモンズのうまい使い方。すばらしい。

古書の来歴

最初は、ずいぶん主人公のベッドインが早いななどと不埒なことを考えながら読んでいたが、来歴その1の章が終わって、作者はこういうことがしたいのかとわかると、がぜん面白くなった。強烈なキャラクターやプロットのツイストで読ませる本は多けれど、「構…

半九郎闇日記

角田喜久雄、小学館文庫。奇想天外とはこのことである。赤穂浪士に竜宮、地下の人形館、八丁堀同心、悪徳商人……どうなることかと思ったら、最後には見事に収拾。しかし、小説としての最大の功績は、松前屋本蔵/お役者小僧という稀有な悪人を生み出したこと…

大番

獅子文六、小学館文庫。痛快そのもののエンターテインメント。丑之助がんばれ。おまきさん、あっぱれ。ラストは壮絶にして爽快。宇和島市に「大番」という菓子があるが、この小説がもとになっているとは知らなかった。小説のなかで、田舎はどちらかと言えば…

震える山

このところ、翻訳ミステリの世界で非常に評価が高いジョン・ハート。『川は静かに流れ』を読んでもなぜか乗れず、理由がわからなくて困っていたのだが、『ラスト・チャイルド』を読んでようやく腑に落ちた。この人の作品、感情移入できる人物がひとりも登場…

今日のことば

7月26日の朝日新聞より、宮崎駿氏。岩波少年文庫の50冊に推薦文を書いたことに寄せて。 「取り返しのつかないものを書くのが大人の文学。取り返しがつくかも知れない、というのが児童文学。僕は大人の小説を読む人間じゃない」「まじめに努力し続ければなん…

今日のことば

「どのようにぶざまな言葉でも、せつない心がこもっておれば、きっとひとを打つひびきが出るものだ」——太宰治ルヘイン作品でいつも感じることです。

ツィメルマン@所沢市民文化センター

・ノクターン第5番 嬰ヘ長調 ・ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 ・スケルツォ第2番 変ロ短調 ・ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 ・舟歌 嬰ヘ長調オールショパンのプログラム。すばらしいとしか言いようのない演奏だった。空疎な流麗さの対極にある構造的アプロ…

ポゴレリチ@サントリーホール

ショパン: 夜想曲 ホ長調 op.62-2 ショパン: ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58 リスト: メフィスト・ワルツ第1番 *** ブラームス: 間奏曲 変ロ長調 op.118-2 シベリウス: 悲しきワルツ ラヴェル: 夜のガスパール異形のショパンだった。低音はあく…

座右の銘に

シャッター・アイランド

映画『ミスティック・リバー』のときには、原作そのままの映像やキャストに驚いた(もちろん内容も立派)が、『シャッター・アイランド』のほうは原作を踏まえながらも、やはりスコセッシふうだった。灰や紙や雪が降る場面、ドロレスが登場する場面など。デ…

ティーレマンのベートーヴェン

http://www.asahi.com/mphil/details/ドイツ人の演奏するドイツ音楽がいつも最高というわけではない。が、昨日の演奏はかぎりなくそれに近かった。サントリーホール全体が鳴り響く感じ。あるいは、あの空間まるごと突き進んでいく感じ。1曲目のタンホイザー…

コジ・ファン・トゥッテ@サントリーホール

ホール・オペラの常連陣は磐石、オケもがんばっていて好感。デムーロも最初は少々弱いかと思ったが、あとにいくほど調子を上げた。個人的には第1幕の終わりが非常に愉しかった。しかしいつも思うのだけれど、これでどうしてみんな最後に仲直りができるので…

グラーグ57

トム・ロブ・スミス、新潮社。前作『チャイルド44』は、なぜ「そのために」あれほど人を殺さなければならなかったのか、どうしても納得がいかなかったが、こちらは大筋で気になる点はなく、予想以上に愉しめた。フラエラの造形が秀逸だし、収容所からの脱…

スラムドッグ$ミリオネア

前半は見たこともないムンバイの景色と風俗に、後半は人間の駆け引きとドラマの勢いに見事に引きこまれた。アカデミー賞もむべなるかな、というより、アカデミー賞の良心としたたかさを感じた。しかし、インドには行けと言われても行けないと思います。

ブラッド・メリディアン

コーマック・マッカーシー、早川書房。宇宙的に美しい荒野のなかを進んでいくインディアン討伐隊。凄惨な殺人の連続。的確な比喩——たとえばさまざまな月。無毛の巨人判事の圧倒的な存在感——「最後に本物が残った」。隊長グラントンが殺されるユマ族の襲撃か…