大番

獅子文六小学館文庫。痛快そのもののエンターテインメント。丑之助がんばれ。おまきさん、あっぱれ。ラストは壮絶にして爽快。宇和島市に「大番」という菓子があるが、この小説がもとになっているとは知らなかった。小説のなかで、田舎はどちらかと言えば貶されているのに、記念の菓子を作るとは、さすが昔の人は鷹揚である。名文句も数知れず。

「富とは要するに、気分のことである。」

「子供が、コマ遊びをして、コマが最もよい回転を与えられると、不動の姿になる。それを、コマが“澄む”と、呼んでいる。丑之助が今度の相場をやってる姿も、“澄み”が出てきた。勝ってる癖に、無心なのである。驕りもしなければ、怖れもしないのである。」

「飲み食いと、女遊びにかけては、大阪は、よくできた都会だった。享楽のピラミッドの頂点は、東京に劣るかも知れないが、底辺が、ズッシリと、重みと拡がりがあった。」

「美人が美徳を兼ね備えたのは、春の花に雪が降って、月が照らしたようなものである。美しいとは、このことであろう。」

「バカにすなや。金儲けは、大証券がするか知らんが、相場は人間がやるもんや。」