2017-01-01から1年間の記事一覧

チャンドラー完訳について(村上春樹/朝日新聞)

「たいそうな言い方になるかもしれないけど、生きた文章を書くには潜在意識で洗い直す作業が必要なんです。ある程度の時間をおいて無意識のなかを何度も通さないと、文章が立ち上がってこない、本当に」 「文章の力は、評価するのがすごく難しい。家族風呂と…

冷酷な丘

C・J・ボックス、講談社文庫。大好きなシリーズで、いつものようにまったく悪くはないのだけれど、結末がちょっと気に入らない。家族にこういう人物を作ってしまっていいのだろうか。それにラストシーンは、あまりにも「待て次号!」になっているような。 …

英国諜報員アシェンデン

サマセット・モーム、新潮文庫。おもしろい。「ヘアレス・メキシカン」も「ジュリア・ラツァーリ」もいいけれど、「裏切り者」の章がいちばんよかった。嫌な感じの男爵夫人を次のように描写するところなど、意地悪な視線がたいへん独創的。 人をはっとさせる…

湖の男

アーナルデュル・インドリダソン、東京創元社。ヘニング・マンケルのヴァランダー・シリーズの1作を読んでいるような感じ。内容は例によって暗いけれど、語り方が心地よいのですらすらと読める。

呼び出された男

スウェーデン・ミステリ傑作選、早川書房。表題作はスティーグ・ラーソン。「ありえない邂逅」はヘニング・マンケルとホーカン・ネッセルのおふざけ。その他印象に残ったのは、冒頭の「再会」トーヴェ・アルステルダール、「大富豪」マイ・シューヴァル&ペ…

ゲーム・オブ・スローンズ 第二章

最後の戦争の場面で、初めて「ハマった」ような気がする。死を覚悟して、王の座で末の息子と自害しようとするサーセイ、そこで扉が開いて、父親ラニスターの軍が乗りこんでくる演出。

東の果て、夜へ

ビル・ビバリー、早川書房。ありそうでなかったノワール。ただ、最後の種明かしのところはどうかなあ。そもそも、そんな目的のために「人殺し」を命じるものだろうか。

ゲーム・オブ・スローンズ 第一章

なるほどよくできている。今後活躍しそうな人が死ぬというのはこれであったか。ドラゴンの扱いにも驚かされた。

This country has socialism for the rich, rugged individualism for the poor. -- Rev. Martin Luther King Jr.

母の記憶に

ケン・リュウ、早川書房。昨年の話題をさらった『紙の動物園』より上出来なのではないか。とくに最初の2篇、『烏蘇里(ウスリー)羆』と『草を結びて環を銜えん』がすばらしい。後者はほとんどノワール小説。ほかにも『訴訟師と猿の王』や『万味調和――軍神…

ダウントン・アビー シーズン6

メアリーとタルボットとの恋愛は、マシューとの結婚前のすれちがいをあれだけ引っ張ったことを考えると、やや性急かと思う。その他、フィアナルシーズンということで、急いでまとめたように感じられる部分もなきにしもあらずだが、うまいのは相変わらず。ダ…

シンパサイザー

ヴィエト・タン・ウェン、早川書房。まず印象的だったのは、ほぼ冒頭のマンと私とボンの義兄弟がビヤガーデンで別れの酒を飲む場面。最後の「再教育」も怖い。思えば当然だが、ヴェトナム戦争がヴェトナム人に残した傷がどれほど深く、複雑で、痛ましいか。 …

野性の呼び声

ロンドン、光文社古典新訳文庫。泣けるのはジョン・ソーントンとのつき合いが始まってから。賭けのためにバックが千ポンドの橇を引いてみせたり、激流でソーントンの命を救ったり。美しいのは次の場面。 北極光(オーロラ)が頭上で冷たく燃え、星々が凍てつ…

人形

ダフネ・デュ・モーリア、創元推理文庫。作者最初期の短篇集。まさに栴檀は双葉より芳し。「笠貝」が圧倒的。解説に「本人は善意のつもりで」とあるが、悪意がありながら、あえて善意として「語って」いるのだと思う。これにThe Limpetというタイトルをつけ…

ダウントン・アビー シーズン5

執事のカーソンとヒューズさんのところでも泣ける。ヴァイオレットやトムは相変わらずいい役だし、ローズの嫁ぎ先の狩りでメアリとイーディス両方のお相手が現れるのは安易といえば安易だけれど、一族をめぐるストーリーの魅力は健在。

ダウントン・アビー シーズン4

それにしても、長女のメアリはなぜこんなにもてるのか。

強き者の島

エヴァンジェリン・ウォルトン、創元推理文庫。ウェールズ神話を題材とするファンタジー。子孫を残すのに、男女や兄弟姉妹の区別はあまり関係ないようだ。悪事を働いた兄弟が王の魔法で雄雌の豚や鹿にされ、子供ができてしまうとか、兄妹のあいだに王の後継…

はい、チーズ

カート・ヴォネガット、河出書房新社。同時に図書館で借りたイジー・クラトフヴィル『約束』は挫折。語り手をころころと替える意図はあるのだろうが、ついていけず。すみません。 さて、ヴォネガットは相変わらずすばらしい。ごくふつうの夫婦がギャングの支…

ダウントン・アビー シーズン3

話がよくできているし、使用人の生活や、階級のちがう者同士のかかわり合い、人の名前の呼び方(たとえば、使用人ならブランソン、家族になったらトム)など、勉強になることだらけ。我慢できずに、いまNHKで放送中のシーズン6を見てしまったので、家族にこ…

その犬の歩むところ

ボストン・テラン、文春文庫。 「あの子を連れていってあげたいのね」 「そうだ」 「どうしてそんなことがしたいの?」 ディーンは飲みものを注いだグラスを両手に持って、その中を見つめながら話していた。その手が今、広げられた。そうすることでまるで何…

ダウントン・アビー シーズン2

第1次世界大戦が始まる(公爵も軍服姿ですな)。戦争で変わる家族それぞれの人生。メアリーの帽子がどれもかわいい(とくに非対称のもの)。自由党の躍進。最後のエピソードのまとめ方もうまい。

ダウントン・アビー シーズン1

なるほどこれはおもしろい。『高慢と偏見』を思わせる限嗣相続問題あり、姉妹の確執あり、使用人間の恋愛と対立あり、スキャンダルあり……。美しい画像で、20世紀初頭のイギリス貴族の暮らしぶりがわかるのもいい。蠟燭が電気に入れ替わるころで、第1次世界大…

人みな眠りて

カート・ヴォネガット、河出書房新社。いやこれはすばらしい。若きヴォネガットの未発表作品集。「ガール・プール」の不思議な印象、「ルース」の意外な結末、表題作「人みな眠りて」のシニカルでほのぼのした味わい、「金がものを言う」で本当に金がものを…

パーソン・オブ・インタレスト シーズン5

シリーズ冒頭のルートのことばが効いている。予想どおり愉しい展開ではないし、最後もちょっと日和ったかと思わないでもないけれど、きわめてレベルの高いドラマだった。

ビリー・ザ・キッド全仕事

これはいい。意味がわからないところも多々あるけれど、たしかに官能表現が見事。

ブロークバック・マウンテン

噂どおり、ヒース・レジャーの演技が圧倒的。絵になる、とはこのこと。妻役もすばらしい。夫とジャックとの関係を知ってからの彼女の演技で、この映画から眼が離せなくなった。山の風景もじつに美しい(しかし、ロケはカナダだったのだとか)。最後の台詞、"…

高慢と偏見とゾンビ

ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス、二見文庫。エリザベスが切り落としたゾンビの首を放り投げて雄叫びをあげるのだからすごい。あとがきに、オースティンの原文を8割以上維持しているとあって驚いた。そんなに。ゾンビを2割増量したバージョ…

パーソン・オブ・インタレスト シーズン4

フィンチのマシンよりサマリタンのほうがいかにも賢そうなのが、心憎い演出。いつの間にかWe are being watchedもサマリタン・バージョンになってるし。このシーズンの頂点は第11話の"If-Then-Else"。マシンのシミュレーションを再現しながら、最高にドラマ…

グエムル

どうも漢江と怪物の縮尺が合っていない気がするのだが。漢江ってあんなに大きかっただろうか。話はまあ、こんなものか。韓国的、とも言うべきフレームワーク(人の顔の正面撮りとか)が見られる。

熊と踊れ

アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ、早川書房。読み飛ばすつもりだったのだが、結局しっかり読んでしまった。この厚さにしてはするするいける。しかしまあ、家族がこういうことをしていたのなら、止めたほうがいいよね。あとがきがいちばん…