野性の呼び声

ロンドン、光文社古典新訳文庫。泣けるのはジョン・ソーントンとのつき合いが始まってから。賭けのためにバックが千ポンドの橇を引いてみせたり、激流でソーントンの命を救ったり。美しいのは次の場面。

 北極光(オーロラ)が頭上で冷たく燃え、星々が凍てつく空に踊り、そして大地は雪のとばりの下で、かじかみ、凍える、そんななかで歌われるエスキモー犬たちのこの歌は、あるいは果敢な生への挑戦であったかもしれない。しかしそれが短調で、長く尾をひく哀切な叫びと、なかばすすり泣きに似た調子で歌われると、むしろ、生きたいという悲痛な訴えとして、生存することの苦しみを表現したものとして、聞くものに訴えかけてくる。これは古い歌だった。犬という種族そのものとおなじだけ古い歌ーー歌というものがどれも悲しいものだった時代、若かりし世界に響きわたった最初の歌のひとつだ。

しかし、犬視点というのはむずかしいね。バックの視点で書かれているところで比喩など(悪鬼のごとく、とか)が使われると、犬にそんな知恵があるのかしらと思ってしまいます。