ラストコールの殺人鬼

イーロン・グリーン、亜紀書房。犯人は名探偵・名警官の推理によってではなく、死体のビニール袋についていた指紋から突き止められるというのがリアルな世界。被害者の人生がかなりくわしく語られている。犯人が出入りしていたピアノバーに著者もかようよう…

アリス連続殺人

ギジェルモ・マルティネス、扶桑社。おもしろいんです。とくに終盤の犯人捜しはなかなかですが、前半の蘊蓄はなんとかならないものかと。ルイス・キャロルは日本でも有名とはいえ、ダ・ヴィンチぐらい知名度がないと蘊蓄ものはしんどいかもしれない。あと、…

8つの完璧な殺人

ピーター・スワンソン、東京創元社。たしかにおもしろいが、ほとんど登場と同時に犯人がわかってしまった。また、冒頭のネタバレ警告で、「私」がブログで取り上げた8つの作品以外にアクロイドが入っていることからも、その後の展開が読めてしまう。これを…

おいしいごはんが食べられますように

高瀬隼子、講談社。ふつうにおもしろいけれど、芥川賞というのが驚きです。芦川さんのような人、どんな組織にもいると思う。

どれほど似ているか

キム・ボヨン、河出書房新社。宇宙船でAIがなぜか人間の体に移って、土星の惑星に住む人々の救助に向かう表題作がすばらしい。一人称のノワールで主人公が死んでしまう問題(語り手がいなくなる)はつねにあるが、AIならデータをバックアップすれば意識は残…

同調者

モラヴィア、光文社。映画『暗殺の森』の原作の新訳。クアードリとリーナの死体の描写(p. 487〜)がすごい。 二人の遺体が丸二日も森のなかに放置されていたことを思い、太陽が、何時間ものあいだ二人を温め、にぎやかな羽音を立てる虫たちの生命をその体の…

死の10パーセント

フレドリック・ブラウン、東京創元社。どれも達者な短篇集。「殺意のジャズソング」なんかにしても、最後のひとひねりはなかなか思いつきませんよね。積読の『シカゴ・ブルース』も読まなければ。

陽炎の市

ドン・ウィンズロウ、ハーパーコリンズ。前半はマフィア要素が足りないかと思ったが、ハリウッドがからんできてから俄然おもしろくなった。『業火の市』のマフィア様式美と甲乙つけがたい。

ヒート2

マイケル・マン、メグ・ガーディナー、ハーパーコリンズ。映画を要約したプロローグの部分から傑作であることを確信。警報装置の解除で電柱にのぼっていると、ループの電車のにおいがする(でしたっけ?)とか、本筋とは関係のない細部も本当によくできてい…

英国古典推理小説集

多くの翻訳ものとちがうアプローチの「読みやすさ」なので、勉強になる。初の女性探偵登場というパーキス「引き抜かれた短剣」など、話としてもよくできています。フィリークス「ノッティング・ヒルの謎」は、このネタにしてはちょっと長いかな。

スタイルズ荘の怪事件

アガサ・クリスティー、東京創元社。きっちり整った本格推理小説だが、密室、家の見取り図、紙の燃えさし、書きかけの文字など趣向も盛りだくさんで、デビュー作ならではの意気込みというか、気負いも感じられる。どんな作家もデビュー作はそうなるものです…

恐るべき太陽

ミシェル・ビュッシ、集英社。ポリネシアの島で展開する『そして誰もいなくなった』ふうの殺人。最初が入りづらいが、最後にパタパタと解決していくところは愉しい。読み終わってから全体を振り返ると、まあよかったかなと。

モンスター・パニック

マックス・ブルックス、文藝春秋社。もっと早くサスカッチが出てもいいと思ったが、出てからはおもしろく、戦いのシーンもたっぷりあって後半は読ませる。ラスト、はたしてふたりの行方は。

悪魔はいつもそこに

ドナルド・レイ・ポロック、新潮社。内容はけっこうグロいけれども、不思議と嫌な印象は残らない。ヒッチハイカーを狩る夫婦の結末が意外にあっけなかったような。あと、滝本氏のあとがきがすごすぎる。

はなればなれに

ドロレス・ヒッチェンズ、新潮社。犯罪にかかわる若者3人だけでなく、スキップの叔父(AAで更生!)やその犯罪者仲間など、まわりが充実していて読ませる。『俺たちに明日はない』などとはまったく別の結末に着地する、予想外の展開も見事。矢口さんご指摘の…

狼の幸せ

パオロ・コニェッティ、新潮社。あいかわらずいい雰囲気。グラッパにはハイマツの実が入ってるんですね。でもやはり『帰れない山』が一頭地を抜いているかな。

破果

ク・ビョンモ、岩波書店。独特の饒舌体で綴る、65歳の女性殺人者の話。韓国にはこういう作家がまだたくさんいるのだろうか。興味深い。

ミン・スーが犯した幾千もの罪

トム・リン、集英社。妻を奪われた男の復讐譚だが、本筋より預言者の予告どおりに死んでいく人々が印象的。つまり殺し屋ミンは「運命」の具象化なのか。この世ならざる能力を持つ旅芸人たちも忘れがたい。

哀惜

アン・クリーヴス、早川書房。落ち着いた雰囲気のミステリー。丁寧に作りこまれている。主人公の警官がゲイというのは最近の流行りなのか。その設定が謎解きに関係していないところがかえって自然。

ポピーのためにできること

ジャニス・ハレット、集英社文庫。これは掘り出しものでした。たいへん愉しい。

名探偵と海の悪魔

スチュアート・タートン、文藝春秋。設定はとても魅力的だが、このかたはプロットやトリックを複雑にしすぎるきらいがある。

優等生は探偵に向かない

ホリー・ジャクソン、東京創元社。相変わらずおもしろいのだが、単独でお薦めするには、前作とのつながりが多いのが難点か。小さな町でひどく混み入った事件が2件続くというのもリアリティ上どうかという……まあ、それを言ったらきりがありませんね。

1794

ニクラス・ナット・オ・ダーグ、小学館文庫。俗悪でありながら美しいストックホルムの描写、魅力ある登場人物。1793未読なので、人間関係の把握にやや戸惑ったが、途中からはのめりこんだ。犯人はスウェーデン版ハンニバル・レクターと言っていいのではない…

ホロー荘の殺人

アガサ・クリスティー、早川書房。最後に近づき、どうやって解決するのだろうと思っていたら、一気呵成に。殺人は一件だし、ポアロの場面も少ないが、全体的には悪くない。

三体

劉慈欣、早川書房。やっと読了。第二部が最高かと思いきや、第三部のほうがすごかった。よくここまで想像できるものだ。

われら闇より天を見る

クリス・ウィタカー、早川書房。読みはじめて数ページでこれは名作とわかる(訳者の力)。しかし、ダッチェスというキャラクターが好きかどうかで評価は分かれそう。たしかに厨二病です(年齢も近いからしょうがない?)。

56日間

キャサリン・ライアン・ハワード、新潮社。コロナ禍で出会った男女。愛し合うもお互い隠していることがあり……。うまい。ただ、コロナ禍という特異なバックグラウンドがあればこそという感じもする。もう1作このレベルの作品を書いたら本物。

業火の市

ドン・ウィンズロウ、ハーパーコリンズ。東海岸のギャングの抗争(アイルランド系vs.イタリア系)。ダニーのラストの変貌ぶりが、『ゴッドファーザー』のマイケルを髣髴させて、さすがウィンズロウさん、わかってらっしゃると思いました。

悪意

J・L・ホルスト、小学館。囚人が犯罪の現地検分中に逃げ出すという設定に新味あり。でもやはり『カタリーナ・コード』の静かな雰囲気が好み。

捜索者

タナ・フレンチ、早川書房。アイルランドの田舎に引っ越した元警官の主人公が、地元の子に頼まれて、その子の兄を捜索する話。最後に関係者とのあいだでもうひと山あるのかと思いきや……。しかし、こういう静かな終わり方も、この地域にふさわしい気がする。