サラサーテの盤

内田百、ちくま文庫。随筆の名手と言われているが、随筆のほうは正直なところ、ぴんと来なかった。しかし小説はすごい。

冒頭の屋根瓦を小石が落ちてくるところといい、青空を背景として坂の上に母子が現れるところといい、聴覚、視覚のイメージ喚起力が抜群。だから、おふささんがやたらと怖い。鈴木清順監督『ツィゴイネルワイゼン』の種本であることを知らなかった(当時、この作家そのものも知らなかった)けれど、映画より小説のほうがはるかに上。

漱石の『夢十夜』にしろ、これにしろ、頭を使って知的エンターテインメントに仕上げてあるものは、たんなる私小説よりのちのちまで読まれる気がしますね。