ごろつき船

大佛次郎小学館文庫。「昭和エンターテインメント叢書」のトップを飾るにふさわしい痛快な一作。

覚円という、仲間を助けるためには殺人も厭わない和尚が言う。
「第一、私たち、無頼漢どもは、実際なにも持っていないが、人間の心持がこんなにぴったりと結びついているなんて、気持のいいことはこれア世間にはあまりないね。欲なんてありやしない、見栄もない。誰だって自分の倖せだけを考えている者はない。みんなが一人一人菩薩なんだ」
 それに同調して蘭方医の述斎先生が、
「それが素敵だと思うのだ。皆さんは法の外に置かれているが、それは法が、人間の作ったもの、いや極く一部の人間、金持ちだの、地位のある者によってその人々のためにだけ都合よく作られ運用されているのだから、その圏外に置かれているからといって、決して不名誉なことはない。正しいのは寧ろ皆さんの方なのだ。無頼漢道(ごろつきどう)が天下に行われるようになれば一番いいのだがね」

主人公クラスはもちろん、すぐに敵に寝返る丸子の吉五郎や、色に眼のくらんだお美津のような脇役の造型も見事。海洋冒険小説の趣もあり、リーダビリティも抜群です。