夜想曲集

カズオ・イシグロ、ハヤカワepi文庫。「老歌手」最後はどうなるのだろうという興味で読ませるし、語りも丁寧、ベネチアの雰囲気もいい。でも後味がよくない。「わたしを離さないで」でも感じたけれど、なんとも言えない「苦味」がある。この歌手は本当にカムバックに執念を燃やしているのか、それとも奥さんと別れたいだけなのか、別れようという奥さんにここまでロマンティックなことをするのか。わからない。これが西洋の上流階級……なの? 嫌な男を美しく書くという超絶技巧に作家が挑戦した作品、と見るのはひねくれすぎかな。個人的には「チェリスト」がいちばんしっくりきた。