闇の奥

作者コンラッドレイシストだったかどうか、に個人的関心はない。1小説としてのこの作品、そしてこれを下敷きにした映画『地獄の黙示録』でとにかく顕著なのは、未知なるものに対する恐怖だろう。「未知」の度合いで言えば、ヴェトナム戦争より19世紀末のコンゴ探検のほうがはるかに大きいけれど、それ以前に海岸部からは続々と黒人奴隷が南北アメリカ大陸に送られていたわけだから、人種問題はマクロ的、客観的には未知ではない。あくまで語り手マーロウの体験として、未知による恐怖のレベルがきわめて高く、それが文学的にすぐれた効果をあげているということ。