死んだレモン

フィン・ベル、創元推理文庫。デビュー作としてはまずまずなのかもしれない。が、少々気になる点も。そもそも最初の絶体絶命は必要なのか。これを置くなら、続く部分では現在形を控え、過去の回想らしく訳すべきではないか。主人公のキャラクターから考える…

セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人びと

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、岩波書店。つまみ食いのような読み方になってしまった。つらい内容もさることながら、時代背景や地理的なことがわかっていないと、誰がどういうことを話しているのかつかめないことが多い。自分の勉強不足ですが。 スタ…

その裁きは死

アンソニー・ホロヴィッツ、創元推理文庫。相変わらずのフェアな謎解きには好感を持つが、前2作より落ちるのではないか。登場人物のホロヴィッツがどたばたしすぎているし、ホーソーンはそもそも魅力に欠け、あとの人々はみなステレオタイプで、謎解きを見せ…

パチンコ

ミン・ジン・リー、文藝春秋社。4世代にわたる在日コリアンの家族の物語。驚くほどすらすらと読めて、ドラマチックなのだが(たしかに朝ドラふう)、少しきれいすぎないかという不満は残る。たとえば、獅子文六の『大番』や宮本輝の流転の海シリーズのような…

弁護士ダニエル・ローリンズ

ヴィクター・メソス、早川書房。飲んだくれの女性弁護士が主人公だけれど、読後感爽やかな1冊。

苦悩する男

ヘニング・マンケル、創元推理文庫。警察小説というよりヴァランダー小説になっているが、今回はそれでいい。謎が解かれても不明な部分はけっこう残っているが、それもいい。むしろ現実的に思える。長いあいだ、このシリーズには本当に愉しませてもらった。

トリガー

真山仁、角川書店。警視庁の藤田がいいキャラ。いかにもこういう○○が警察に紛れこんでいそう。 「 」のあと、主語なしの主観的1文が入って、次の「 」が始まるのが真山文体。 「………」 さもありなん。 「………」 とか。翻訳書の影響ですかね。かっこいい。

発火点

C・J・ボックス、創元推理文庫。とくに後半の冒険部分がすばらしい。シリーズ第2作『逃亡者の峡谷』とある点でつながっているのも興味深かった。ジョーは次にどのような仕事につくのか。

エレベーター

ジェイソン・レナルズ、早川書房。兄の仇討ちをしようとする弟がエレベーターに乗って下までおりるあいだに体験すること。企みに満ちた小説。この作家の短篇を読んで感心し、これも読んでみて感心。しかしこのタイトル、気持ちはわかるけれど、ほかの案はな…

ホーム・ラン

スティーヴン・ミルハウザー、白水社。相変わらず質の高い短篇集。最初の「ミラクル・ポリッシュ」から引きこまれ、最後の「ホーム・ラン」も自分で訳してみたいと思うほどだが、なぜか強く印象に残ったのは、釈迦誕生の話「若きガウタマの快楽と苦悩」w

エッジウェア卿の死

アガサ・クリスティー、早川書房。メインのトリックは後年の別の作品と同じだが、出来は甲乙つけがたい。目くらましはこちらのほうが上かもしれません。途中で、わかってしまったと思うものの、すぐにはずされる。パーティでの伏線の仕込みもしゃれている。

ザリガニの鳴くところ

ディーリア・オーエンズ、早川書房。たしかに自然描写はすばらしい。さすがは動物学者。カイアがカモメに餌をやるところなど、じつに絵になる。細部は本当に大事ですね。一方、プロットはstraightforward。犯人は途中からふたりしか考えられないが、まあ、落…

黄金州の殺人鬼

ミシェル・マクナマラ、亜紀書房。長年、カリフォルニア全土にわたって強盗、強姦、殺人をくり返していた犯人を、著者がアームチェア・ディテクティブよろしく追いつめていく記録。本書が直接犯人逮捕に寄与したということはないようだが、臨場感がすばらし…

ザ・ボーダー

ドン・ウィンズロウ、ハーパーコリンズ。これだけの内容をぶちこんで、きちんとエンターテインメントになっているところが何よりもすごい。

逃亡者の峡谷

C・J・ボックス、集英社文庫。ジョー・ピケット・シリーズの2作目なので、まだネイトも出てこない。しかし、初期作品の勢いと新鮮さが感じられるし、環境保護テロリストとのバディものという味もある。佳作。

魔女の組曲

ベルナール・ミニエ、ハーパーコリンズ。読ませる力はあるのだが、こんなにうまく人を追いつめることができるものだろうか。都合のいい偶然が重なりすぎている気がする。オペラの使い方もどうでしょう。もう少し数をしぼって、章タイトルなども整理すればい…

ザ・チェーン

エイドリアン・マッキンティ、早川書房。作者が著作エージェントに構想を話したとたん、ほかのことはすべてやめてこれに取りかかりなさいと言われたのもうなずけるウルトラ・ページターナー。だが、話自体はイヤミスの部類でしょうか。ちょっとつらすぎる。

天使は黒い翼をもつ

I・W・ハーパーの一パイント・ボトルから直に飲み、チェーサー代わりに口いっぱいに雪をほおばった。ウイスキーは火かき棒のように熱く、丸みを帯びて流れ落ち、胃のなかでかっと燃え、それからぬくもりとともに四肢を移動し、下腹のあたりにぬくもりの小…

東大で文学を学ぶ

辻原登、朝日選書。ドストエフスキーに谷崎潤一郎ときたら読まないわけにはいきません。非常に刺激的でおもしろい内容だった。自由間接話法の説明なども、なるほどと納得。

息子たちよ

北上次郎、早川書房。『昭和残影』の息子さん版かと思いきや、書評もついている。犬のジャックや息子さんたちの話に特化してもよかったかと思うけれど。とはいえ、こんなにも読んでいない作家や本があったことを知らされて愕然とする。ひとつのテーマごとに…

ゴールドフィンチ

そして彼女は喜んで教えてくれた。それぞれの家具がもっともよい状態で光を受けているのをとらえるには、どこに、何時に立つべきかを。午後遅くに、日の光がぐるりと部屋をめぐるときーー」彼はパッ、パッ! と指を広げた。「それらの家具はひもの付いた爆竹…

パリ警視庁迷宮捜査班

ソフィー・エナフ、早川書房。はぐれ者たちが未解決事件を捜査する特捜部Q的なシリーズの1冊目。さくさくと愉しく読めるが、特捜部と同じく、どうも笑いをとりにいく場面になじめず、いっそなければと思ってしまう。まじめ一辺倒じゃいけないんでしょうか。

五匹の子豚

アガサ・クリスティー、早川書房。途中まで真相がわかったので、もしかすると昔読んで忘れていたのかと思ったけれど、やはり読んでいなかったのかな。こういう叙述トリックはいかにもクリスティーらしい。ただ、ひと昔前の事件を解明するために関係者全員が…

葬儀を終えて

アガサ・クリスティー、早川書房。『そして誰もいなくなった』や『アクロイド』、『ナイル』など有名作品の陰に隠れて目立たないが、これは傑作。クリスティーの冷たい観察眼も愉しめるし、関係者を集めての大団円やトリックも含めて、じつに端整な仕上がり…

地の底の記憶

畠山丑雄、河出書房新社。英語の関係代名詞節のように、主節から話がどんどん離れてうしろにつながっていく。途中、着地点はまったく見えないが、最後にはきちんと着地。不思議な愉しい感覚を味わいました。

メインテーマは殺人

アンソニー・ホロヴィッツ、創元推理文庫。相変わらずよく練られた謎解きだが、カササギのときほどは感心しなかった。なぜだろう。ホーソーンに魅力がなかったからか。カササギの多層構造に比べて事件がシンプルすぎたからか。もとより個人的にはあまり謎解…

生まれながらの犠牲者

ヒラリー・ウォー、創元推理文庫。13歳の娘の失踪というワンイシューでよくこれだけ読ませる。各警官のキャラクターや個人的な背景が豊かな北欧ものを読み慣れたせいか、署長をはじめ、地味に捜査を進めるあまり色のない警官たちがクロフツっぽいと思ったり…

休日はコーヒーショップで謎解きを

ロバート・ロプレスティ、創元推理文庫。選者の目が光る短篇集。どれを読んでも不快にならないところがすばらしい。

定家明月記私抄および続篇

堀田善衛、筑摩書房。すばらしい。兄弟姉妹もわが子も30人近くいるとか、SFかよ平安時代。新古今のエッセンスもわかった気分になる。そのうち再読したい。

厳寒の町

アーナルデュル・インドリダソン、東京創元社。安定の読み心地。残り少ないページ数でどうまとめるのかと思ったら、ちゃんとできましたね。