2016-01-01から1年間の記事一覧

彼女のいない飛行機

ミシェル・ビュッシ、集英社文庫。作りすぎ(偶然要素多すぎ)という気はするけれども、リーダビリティは抜群。日本語タイトルは原題どおりですが、もう少しなんとかならなかったものか。いいのをつければ、セールス的にはアレックスに近づけたかという気も…

素晴らしきソリボ

パトリック・シャモワゾー、河出書房新社。カリブ海のマルティニークの作家で、クレオール語も駆使した物語。日本翻訳大賞受賞作。ひとりの「語り部」の死にまつわるドタバタ喜劇という趣(現地ならではの比喩が愉しい)だが、詩に近いところもあり(とくに…

アーサーとジョージ

ジュリアン・バーンズ、中央公論社。アーサー・コナン・ドイルとジョージ・エイダルジという実在の人物と実在の事件をもとにした小説。全篇に落ち着いた雰囲気が流れ、とくにドイル死後の最終章が印象深い。ジョージが昔の冤罪事件を振り返って、サー・アー…

鏡の国の戦争

ジョン・ル・カレ、ハヤカワ文庫。『寒い国から帰ってきたスパイ』でブレイクしたあとの作品だから気も遣っただろうが、少々印象は薄いか。乱暴なことを言えば、「潜行員エイヴリー」の第二部は不要だった気もする。あるいはもっと短く切り詰めるか。もちろ…

学長式辞

すばらしい。 http://www.kcua.ac.jp/information/?mp=72926

未成年

イアン・マキューアン、新潮社。文句なしに愉しめた。初めてマキューアンと波長が合った気がしてうれしい。主人公は高等法院の初老の女性裁判長。ものみの塔の信者で輸血を拒む若者の裁判を担当し……。同時に主人公が結婚の危機を迎えているというのが大筋だ…

悲しみのイレーヌ

ピエール・ルメートル、文春文庫。いやたしかによくできたページターナーではあるんですが、そういうことのために、こんなに手のこんだ(しかも非道い)ことをするかなあと。ほかの読んだかたの意見を聞いても……やはり犯人の動機がよくわかりません。リアリ…

ゼロ以下の死

C・J・ボックス、講談社文庫。いつも安心して愉しめるシリーズ。そういう動機でここまでやるかという疑問はあるものの、鷹匠ネイトがバイクを駆る大活躍。奥様がたも大満足でしょう。

霜の降りる前に

ヘニング・マンケル、創元推理文庫。何年あいだがあこうと、すっと入っていける。昨年亡くなったのが本当に残念。 この作家の美点のひとつは、細部の作りこみだろう。たとえば、クラシック音楽をポップスにするのではなく、ポップスをクラシックに作り直して…

モーリス

まず原作とちがうのは、モーリスの造型。原作では黒髪で、もっとたくましい。dullという表現も何度か使われる。クライヴに比べて頭は悪いが体力はある(ラグビー、ボクシング)という役柄。 また、映画ではクライヴのギリシャ旅行のまえにリズリーが逮捕され…

オリバー!

キャロル・リード監督。マーク・レスター、ロン・ムーディ、オリヴァー・リード。「オリバーのマーチ」や「ウン・パッパ」がここで歌われる曲だったとは。ビル・サイクスがほかの演出より悪者に描かれている印象。ナンシー殺害は、彼女がオリバーをブラウン…

高貴なる殺人

ジョン・ル・カレ、早川書房。スマイリー=凡庸という描かれ方が気の毒なほど。 光線に照らし出されたそのまる顔に、真剣な表情がうかんでいるところは、むしろこっけいなものと感じられた。かれの真価を知らずに、風貌だけを見ている人たちは、どのような印…

イギリス文学入門

石塚久郎、三修社。 流動化する社会のなかで、挫折や危機を経て内面的な成長を遂げる主人公を描く「教養小説(ビルドゥングスロマン)」は、ヴィクトリア時代の小説におけるもっとも重要な形式の一つである。ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を…

深い森の灯台

マイクル・コリータ、創元推理文庫。なるほどそう来ましたか。後半の展開には満足。惜しむらくは、最初のつかみが少々弱い(気がする)。コリータって、最近こういう路線で書いてるんですね。

House of Cards シーズン2

1章から度肝を抜く展開。最終章もある人物が殺されて不穏なまま。ルール違反と言いたくなるぎりぎりのところで見る者を惹きつける。役者たちの演技もさることながら、脚本の勝利か。次のシーズンも見ずにはいられません。

死者にかかってきた電話

ジョン・ル・カレ、ハヤカワ文庫。二転三転するよく練られたプロットは、すでにハイレベル。唯一、最後にスマイリーの報告書のかたちで真相を解説するのは、小説作法としてどうかと思わないでもないけれど、デビュー作ですからね。作者の思想のエッセンスも…