2015-01-01から1年間の記事一覧

ジキルとハイド

ロバート・L・スティーヴンソン、新潮社。あまりにも有名な話ながら、人格がまだ育っていないハイドはジキルより若々しいとか、発想やプロットの展開になるほどと思わせる点がいくつもあり、やはり立派な古典だなと。登場人物がその後のコンテンツでひとり…

海を照らす光

M・L・ステッドマン、早川書房。大した新人が現れたものだ。短いエピソードを連ねていく語りそのものもうまいが、プロットの盛り上げ方(トムが殺人罪に問われるか……)も、人物造型(イザベルが憎らしいほどだったのに最後には……)も手練の技。だからシン…

モーリス

E・M・フォースター、扶桑社。『インドへの道』に続くフォースター祭り。イギリスでウルフェンデン勧告が法律になり、同性愛が合法化されたのは1967年だというが、そのあとにこの話が書かれていたらどうなっていたかと考えずにはいられない。いわゆる性描…

最近の吹替

翻訳情報誌Amelia2015年3月号で、吹替翻訳者の平田勝茂さんが、こんなことを書いておられる。 昔の、アナログではあったが、自由奔放・闊達で、弾んだ台詞のやりとりが楽しめたTV洋画黄金時代。デジタルで技術的には格段の進歩を遂げたものの、どこか人間臭…

インドへの道

E・M・フォースター、ちくま文庫。スコット・トゥロー『出訴期限』巻末についていた著者推薦本のひとつ。これはたいへんな掘り出し物だった。インドvs.イギリスの人間模様。こんなに味のある作家だったのか。原文はむずかしそうですが。あえて文句をつけれ…

八月の六日間

北村薫、角川書店。山は大好きだし、北村さんの本もとくに初期のころはよく読んだ。しかし本書。山の場面はいいけれど、主人公の人生語りがちょっと……「王様のブランチ」で大絶賛、ですか。まあ、自分の感性がもはや世間様からずれているのはわかっています。

雪山の白い虎

デイヴィッド・ゴードン、早川書房。なんのかんの言って、『二流小説家』からずっとフォローしている。やはり私はこの作家が好きなのだ。作家と対象との距離感が心地よいのかな。随所でけっこう笑わされた。とはいえ、好きなのは「われら幸福な少数派」、「…

その女アレックス

ピエール・ルメートル、文春文庫。海外ミステリーとしては爆発的ヒット作。ふつうにおもしろいけれど、突出しておもしろいかというと、?? コンビネーションの妙ということですかね。

カステラ

パク・ミンギュ、クレイン。いやこれはすばらしい。何より翻訳が自由。しかも訳者は韓国の人。英日翻訳って、情報が多すぎてみんな縮こまっていないか。こんなに愉しくていいものなのに。「そうですか? キリンです」でなるほどと思わせられ、「ヤクルトおば…

ありふれた祈り

ウィリアム・K・クルーガー、早川書房。『闇の記憶』を読んだときには感じなかったのだが、どうもこの作品には田舎物の「えぐみ」がある。カエルを爆発させるいたずらとか。終盤は盛り上がってくるけれど、どうも全体の雰囲気が……

新聞からの引用(デスクメモ)

ヒトラーの右腕だった高官が戦後の裁判でこんな趣旨の証言をしたという。「国民は戦争を望まない。しかし決めるのは指導者で、国民を引きずり込むのは実に簡単だ。外国に攻撃されつつあると言えばよい。それでも戦争に反対する者を、愛国心がないと批判すれ…

フランケンシュタイン

メアリー・シェリー、新潮文庫。初読。なるほどこういう話でしたか。フランケンシュタインは老博士と勝手に思いこんでいたけれど、学生時代に創ったというのには驚いた。怪物の創造過程や人間化していく過程はあっさり。むしろ、スイスやライン川など、ヨー…

ことばの力

本日の記者会見での中田考氏のメッセージ: 〈ウマルさんへ、イスラム国の友人、知人達へ〉 1.日本の政府に対して、イスラム国が考えている事を説明し、こちらから新たな提案をするから待ってほしい。 2.72時間で人質に対して、何かするのはやめてほし…

もう年はとれない

ダニエル・フリードマン、創元推理文庫。この種の一人称小説で語り手が発するジョークは、じつのところそれほどおもしろくない(典型的にはチャンドラーの誇張表現。あくまで個人的感想)けれども、この本のジョークには笑った。 「ハニー、おれは八十八歳だ…