もう年はとれない

ダニエル・フリードマン創元推理文庫。この種の一人称小説で語り手が発するジョークは、じつのところそれほどおもしろくない(典型的にはチャンドラーの誇張表現。あくまで個人的感想)けれども、この本のジョークには笑った。

「ハニー、おれは八十八歳だ。サンドイッチを作ってくれる人間が手を洗うのを忘れたら、それこそが外敵だよ」

とか、

ほんとうの殺人事件はあさましくてまぬけでこまやかさに欠け、刑事が会う人間の大半はまさに見かけどおりだ。なるほどと思わせる策略をめぐらせる頭や想像力がクズにあるなら、そもそもクズにはなっていない。

とか、笑える名言が続出。それだけで点が高い。八十八歳の元警官を探偵にした発想の勝利という面はあるが、原作・翻訳のどちらも高レベルで好感が持てる。