8つの完璧な殺人

ピーター・スワンソン、東京創元社。たしかにおもしろいが、ほとんど登場と同時に犯人がわかってしまった。また、冒頭のネタバレ警告で、「私」がブログで取り上げた8つの作品以外にアクロイドが入っていることからも、その後の展開が読めてしまう。これをよしとすべきなのか。ここまで早く犯人と先の展開がわかったのは、リチャード・ノース・パタースンの『子供の眼』以来。

書斎の死体

マクイーワン版のマープルはなんだか活動的&強気。犯人が原作とちがうのは、原作をすでに読んでいる人向けのサービスかもしれないけれど、わざわざ⚪︎⚪︎愛を持ち出す必要があったのか。アリバイづくりのためのすり替えや、遺体が計画外のところへ移動というのも、ちょっと凝りすぎですかね(これは原作の問題)。

どれほど似ているか

キム・ボヨン、河出書房新社。宇宙船でAIがなぜか人間の体に移って、土星の惑星に住む人々の救助に向かう表題作がすばらしい。一人称のノワールで主人公が死んでしまう問題(語り手がいなくなる)はつねにあるが、AIならデータをバックアップすれば意識は残るので、解決ですね。「ママには超能力がある」の人と人は近接することで原子を交換し合っているというイメージもおもしろい。ただ「稲妻」や「隕石」が出てくるヒーローものはちょっと……。

トゥルー・クライム・ストーリー

ジョセフ・ノックス、新潮社。リーダビリティはとても高く、犯人も意外で、メタフィクション的な作りもおもしろいのだが、いまいち乗れなかった。つくづく自分は麻薬常用者が好きではないのだと再認識した次第。というより、もしかすると『ポピーのためにできること』とちがって、明るいキャラが出てこないせいかもしれない。もったいない。

サン=フォリアン教会の首吊り男

ジョルジュ・シムノン早川書房シムノンは『黄色い犬』ぐらいしか読んだことがなかった。それもたぶん小学生のころだから、よさがわかるわけがありません。これはすばらしい。謎も魅力的だし、ラ・ボエーム的な若さの苦味もある。幕切れもよく、全体的にコンパクト。文句のつけようがない。