ある男

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平野啓一郎文藝春秋。たいへんに頭のいい作家で、物語をめぐるすべてが過不足なく、説得力をもって描写されている。ウォッカを飲んで酔うときの「角度」など、比喩も巧みだし、ナルキッソスをめぐる『変身物語』も全体の筋ときちんと呼応していて、最初は不要かと思われた城戸の在日という設定もこの「変身」のテーマに包含されていることがわかる。序文で城戸が偽名を使っていたことも、なるほどという伏線。

あえて難を述べれば、大小の作りですべてが収まるところにきっちりと収まりすぎて、読むときの心の余裕というか、「遊び」が足りないように思うことぐらい。