村上春樹、新潮文庫。小澤さんがみずから振った昔の演奏を聴きながらこう語る。
小澤「ここはもっとやるべきなんだ。もっとディレクションをはっきりするべきです。こうじゃなくて、たあ、たあ、たーーん(アクセントを強調する)、という具合に。もっと勇気を持ってやらなくちゃいけない。もちろん『勇気を持って』なんてことは楽譜には書いてないんだけど、それを読み取らなくちゃいけない」オーケストラが音楽をより明確に構築していく部分。小澤「ほらね、ちゃんとこうしてディレクションはできてるんです。しかし今ひとつ勇気がない」
これ、翻訳にも言えることだと思う。『勇気を持って』なんてことは原文には書いてないんだけど、それを読み取らなくちゃいけない。いつもそろりそろりと橋を渡っているような日本語は、やはり読んでいてつまらない気がする。まあ、言うは易く行うは難し、ですが。