ハンニバル

トマス・ハリス新潮文庫。これでレクター・サーガの復習もひとまずおしまい。『ハンニバル』自体は、レクターのあまりの大きさに作者が引きずられてこうなったのかという感じ。読者にとってレクターより悪辣で憎たらしいヴァージャー(小児性愛者)を生み出した時点で、おかしなことになってしまった。この小説全体が、レクターはこれが好き、あれが嫌いといった「プロフ」状態に。スーパーマン化、ヒーロー化したと言ってもいい。
さて、先だって酷評したTVドラマ『ハンニバル』だが、意外にこのシリーズをしっかり踏まえて作っていることに気づいた(恥)。たとえば、
・まず全体として、登場するサイコキラーたちをレクターが患者として診ているという大枠を守っている。
・『レッド・ドラゴン』のホッブズの短いエピソードをグレアムのトラウマとしてうまくふくらましている。もちろんそのホッブズをレクターが操っている。
・グレアムが幻視を見るまえの振り子のイメージを踏襲。FBIアカデミーで講師をしていたことも。
・鹿の枝角の椅子も『レッド・ドラゴン』のグレアムのイメージから。
・レクター・サーガでは死亡するクロフォードの妻ベラ(ただし『レッド・ドラゴン』で出てきた妻の名前はフィリス)の病気とクロフォード夫妻の関係をサブエピソードとして活用。
・グレアムが夜に犬を引き連れて歩く場面は、『レッド・ドラゴン』に寄せた作者の序文より。
などなど、誰かがきちんと過去の遺産を勉強して作っていた。それでも、何も知らない人が見るとしんどいだろう(つまり既存のファン向け)という印象は変わらないけれど。