父を撃った12の銃弾

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ハンナ・ティンティ、文藝春秋。すばらしい。個人的には『ザリガニの鳴くところ』よりはるかに好み。ホーリーとリリーが出会う場面は最高だし、最後の余韻も味わい深い。次のような箇所も印象に残る。

鏡を見ているようだった。ルーの内にあるのと同じ望みが、愛されたいという狂おしい欲求が、すぐ目の前に、マーシャルの母親のなかにあった。それはグンダーソン校長にも、古いパーティーの写真でリリーの腰をつかんでいる彼のなかにもあった。足を固定具に乗せて子どもの泣き声を聞いているアグネスのなかにも。バスルームで紙きれに囲まれて喪に服している父親のなかにも。みんなの心が同じ狂気を——発見を、至福を、喪失を、絶望を——くり返し、太陽の周りの軌道を代わるがわるめぐっているようだった。みんなが自分にしかない引力を持っている。……(中略)……その誰もが同じ楕円の軌道上を動いていること、ときにはそれが途中で重なり合うことを、みんなが愛を見つけて愛を失い、愛から立ちなおってまた愛していることを思うと、胸が温かくなった——みんなが円を描いているのなら、そしてルーが冥王星だったら、自分も二百四十八年に一度、太陽に一番近づくことができるのだ。