水滸伝(九)

北方謙三集英社文庫。中断していたのを再開。読了してから感想を書こうと思ったが、どうしても我慢できず。

たとえば、九巻に出てくる飛竜軍の飛。かつて魯智深を救い、今回柴進を救ったとはいえ、全体として見れば端役だが、それでも強い印象を残す。なぜというに、ほかの多くの登場人物が「志」で動くのに対し、この男には「名を上げたい」という功名心があり、同じ英雄的な行動をとっても、部下の楊林に「兄貴はどこかで間違った」と指摘されたりする。また、救われるほうの柴進も、蓄えた財にこだわりすぎる負の面を見せる。このような人物のバラエティが物語の奥行きを増している。

飛亡きあとを継ぐ楊林も忘れがたい。自分などが言うのも口幅ったいが、「人を描く」とはこういうことかと思った。その意味で、楊志が壮絶な死を遂げた七巻より感心した。