結ばれたロープ

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フリゾン=ロッシュ、みすず書房。ラスト近くのヴェルト峰頂上からの風景がこの上なくすばらしい。

 日没はかぎりなく先延ばしにされている。平野ではすでに夜だが、ここ、四〇〇〇メートル以上のこの山頂では、彼らが影を抑えこんでいるのであり、消えつつある柔らかい日の光が彼らに優しくふれている。

 夕暮れが西のほうを赤く染めている。オーロラのようにとても強烈な夕焼けであり、影になった谷々の上に広がっている。北極の氷原のどこかで、雪の暗礁にうちよせる暗い海の沿岸で座礁しているような感じである。四〇〇〇メートル以上のいくつかの頂上だけが、地面に灯ったいくつかの光の点にすぎない。明かりをつけた五軒か六軒の家が、灯台のように人々の休息を見守っているかのようだ。それらの明かりも、ひとつ、またひとつと消えてゆく。ついに二つの光だけになった。東にモンテ・ローザ、そして西にモンブランである。モンテ・ローザも光が弱まり、そして闇のなかに沈む。このとき目に見えない番人が、とうとう休む時間になったと判断して、モンブランの円頂を虹色に染めていた最後の光を消す。