ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む

フリードリヒ・デュレンマット、白水ブックス。今回も愉しい1冊。作者自身が書きたかった結末と、ふつうの娯楽小説を期待していた読者向けの結末が用意されているが、だんぜん前者のほうがすぐれている(筒井康隆的に)。スラップスティックでは細部が重要だが、脇役では、凍りついたままロココふうの城までついてきて、城のなかで融けはじめる美術商や、城に一族を引き入れて暴れはじめる主人公の弟が秀逸。ほかにも、画家の屋根裏部屋に至る階段でピアノが聞こえたり。
なぜ平凡な童貞中年男がどんどん幸せになっていくのかという謎解きも含まれ、城のなかの部屋の案内がリップスティックで書かれていることなど、伏線の張り方も気が利いている。