流砂

ヘニング・マンケル、東京創元社スウェーデンを代表するミステリー作家が、がんを宣告されてからの思索の断片のようなもの。かならずしも死を意識したからではなかろうが、考える時間の単位が、次に氷河期が訪れるまでといったふうに何十万年とか何百万年になっている。彼の作品のスケールの大きさは、こういう考え方から来ていたのだとわかる。

私たちの文明からすべてが消滅したとき、二つだけ残るものがある。果てしなく宇宙を回る無人惑星探査機ボイジャーと、地下深くに埋め込まれた放射性廃棄物。それが私たちの文明の遺産である。

 いわゆるPolitical Correctnessとはちがう。みずからの知識と経験にもとづく直感のようなもので、正しいから正しい、まちがっているからまちがっていると判断する。それは『オリヴァー・ツイスト』の解説でG・K・チェスタトンが指摘していたディケンズの考え方と同じだ(そうしてディケンズは救貧院を攻撃した)。

忘れることと噓。この二つはしばしば協力して働くものだ。